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館長室の窓から <10> を更新いたしました

館長より | 2019.03.13

今回は松濤美術館がここのところ重要視して取り組んでいることについて紹介したいと思います。
昭和56年の秋に松濤美術館は作品を所蔵せずに展覧会を開催する当時めずらしい美術館として発足しています。
それがこの美術館の大きな特徴であったわけですが、後に寄贈を受けいれることになり、まったく作品をもたない館ではなくなりました。現在では1708点の作品を所蔵しており、その内訳は絵画446点、彫刻56点、版画107点、写真659点、その他440点というように点数からいえば、それなりの数の作品を所有していることになります。しかし、これらの作品がすべて陳列に可能かというと必ずしもそうではなく、保存状態やその他さまざまな状況によって展示に不可能な作品もあります。
いずれにせよ、こうした寄贈品についてはこれまでも折りにふれて展示に用いていますが、今後も引き続きいろいろな形で活用していくつもりです。
ところで現在の当館の展覧会の状況といえば、メインのものが5本で、それに小ぶりのサロン展、公募展、そして渋谷区小中学生絵画展が加わり、都合年間8本の展覧会を開催することになっています。この5本の展覧会も館独自の企画展のほかに他館で開催の展覧会、いわゆる巡回展があります。
開館以来、メイン展だけですでに180回以上の展覧会を行っています。このうち東洋関係は約60回ほどで全体のおよそ3分の1ぐらいです、その他は西洋もしくは日本の近現代のもので占めており、少々偏り気味の傾向があったかもしれません。しかし、それもこの美術館のひとつの特徴であったともいえます。
その東洋美術関係の展覧会の内容を詳しく見てみると、意外にも日本美術の展観の回数はそれほど多くなく、東洋関係の約3分の1の20回ほどしか開催されていないのが実情です。これにはおそらくさまざまな事情があってのことだと思いますが、いずれにせよ日本美術を学ぶということは言うなれば日本人としてのアイデンティティをより深めることにもつながるものだとも思いますので、日本美術の展観が他に比べて少ない印象は免れないと思います。
そこで、この5年間には日本及び日本中心の美術展を14本ほど行いました。このうち、子供たちの美術展への参加を意識した試みとして行った8つの展覧会(スサノヲの到来展、月展、おくの細道展、畠中光享コレクション インドに咲く染と織の華展、三沢厚彦アニマルハウス展、詩人吉増剛造展、林原美術館所蔵 大名家の能装束と能面展)では鑑賞の補助となるように、リーフレットを作成し、渋谷区の小中学生7,000名全員に配布しました。そして「おくの細道」展の時には子供たちに俳句をつくってもらい、約1,000名が参加してくれました。それらの俳句は館内の壁面いっぱいに飾り、来館者を和ませるといった相乗効果がありましたし、この俳句づくりは正月にも行い、約600名の子供たちが詠んでくれました。これもまた同様に壁面に飾り、多くの来館者を楽しませてくれました。
このように当館はいま子供たちが美術に関心をもち、美術に親しんで感性を磨いてくれることを念願にして励んでいるところです。
そもそも美術館は美にふれて、知識を養い憩いをもつというところであると考え、当館ではそれをスローガンに掲げています。
しかも、美にふれる良い時期を考えると、やはり幼少期の時代がもっとも相応しいのではないかと思います。したがって、当館では5年前から、子供たちが見て、喜び、そして感性を養う何かを感じとってくれるような展覧会を企画したり、さらに展覧会に持続的に参加してくれるような工夫を凝らしてきました。
具体的には前述したように、俳句を詠んでもらったり、また感想文を書いてもらったりしています。これからもこのような試みは継続して行うことにしていますし、他にもさまざまな案を心懸けて実施したいと思っています。
こうして子供たちの多くが、当館の行事に奮って参加してくれている背景には、小中学校の先生方の協力があることを忘れてはならないと思いますし、それについては深く感謝しているところです。
そうした成果は最近の当館への子供の入館者数にも反映しており、次第に増加してきており、「三沢厚彦 アニマルハウス 謎の館展」(2017年)では468人が訪れ、当館のこれまでの最多記録をつくりました。この数字は一般の美術館と比較した場合決して少ないとはいえませんし、むしろかなり多い数字だと思います。それほどにどこの美術館でも若年層の人たちの美術館への入場者数は少ないのが現状です。
したがって、当館ではいま、子供そして青年たちに美術館に運んでもらうことを重視し、それに向かってあらゆる面で創意工夫を重ねながら努力していくつもりでいますので、見守っていただきたく思います。

渋谷区立松濤美術館館長 西岡康宏