武者絵

江戸の英雄大図鑑

2003年4月8日(火)~2003年5月18日(日)

江戸文化の華である浮世絵は、様々な画題を取り込んで、庶民のニーズに応えるメディアであったが、義経をはじめとする古今の名将や、弁慶や曾我兄弟などの力自慢を描いた武者絵も、美人画、役者絵、風景画などと並ぶ主要なレパートリーの一つであった。嘉永六年に刊行された『江戸寿那古細撰記』では、「豊国にかほ、国芳むしや、廣重めいしよ…」の順が示されており、国芳が描く武者絵は、豊国の似顔(役者絵)に次ぎ、広重の名所風景画を上回るほどの人気があったことがわかる。
浮世絵の中の武者たちは、庶民のヒーロー願望を反映するように、超人的なまでの肉体をまとって、驚くばかりの離れ業を演じている。そのような史実から空想の世界に一歩踏み出した大胆な表現こそが武者絵の魅力であり、子供から大人まで多くの人々に愛された理由であろう。江戸庶民にとって浮世絵の中で活躍する武者たちは、歴史上の有名人であったばかりでなく、単調な日常を忘れさせてくれるヒーローだったのである。
武士の世が終わって新時代が到来すると、厳密な考証に基づく歴史画が盛んとなる一方で、武者絵は次第に下火となってしまう。凧絵やねぷたのような祭礼の山車の形象として庶民の間では受け継がれたが、特に戦後は美術史の本道からはずされて、満足な展覧会も開かれずにいたのが実状であった。
しかし武者絵のダイナミックな構図や躍動する肉体表現は、刺激になれた現代においてさえ、充分な魅力を持っているし、国芳らが描く幕末の武者絵の完成度の高さは、江戸文化の成熟を示すものでもある。この展覧会は、そのような魅力溢れる武者絵の世界を、はじめて真正面から取り上げたものであったが、中心的な役割を果たした錦絵をはじめ、絵馬や凧、屏風、絵巻、絵本など様々なメディアに描かれた武者絵を展示することにより、その魅力の一端を示せたのではないかと考える。

展覧会情報

会期 2003年4月8日(火)~2003年5月18日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
※65歳以上の方及び障害者の方は無料
※毎週土曜日は小中学生無料
休館日4月14日(月)・21日(月)・28日(月)・5月6日(火)・12日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売