谷中安規の夢

シネマとカフェと怪奇のまぼろし

2003年12月9日(火)~2004年2月1日(日)

近代版画家の知名度はまだまだ低い場合が多い。その作品の評価も同様である。さすがに棟方志功は抜きんでて別格のごときであるが、それ以外の版画というと本当に心もとない。
しかしながら、その知名度においてマイナーな存在であることと、芸術性の価値がかならずしも一致しているわけではないということは言うまでもない。版画芸術がいまだ認知度が低いということは、その独自性がなかなか喧伝されていないという面もいなめない。
一様に評価の貶められているのは、それだけの作品でしかないのか、あるいは、何かがまちがっているのか、歴史的な版画のなかにも印象的な画像があり、人々のなかに記憶に残っている作品もあるはずだ。また、その造形性においても美術史的にみても重要な前衛たりえた版画も存在する。
近代の版画のなかには他のメディアではなしえなかった独自の表現がまま見られる。恩地孝四郎、田中恭吉、織田一磨、藤牧義夫、さらには川上澄生らの絵を見ていると、油彩画、日本画の作家にも比しても大きな存在感を感じる。
谷中安規はそうした近代版画のなかでももっとも優れた表現をもちえた版画家のひとりである。現実とまぼろしを浮遊するような感覚でもって、幻想や夢のあふれる世界を表現している。彼のような、つぎつぎと湧きでるイメージを吐きつづける、まさに創造力の横溢する煌めく才能は例をみない。
谷中をとらえる方法として、いくつか要素があろう。モダンとプレモダン、東洋と西洋、聖と俗、性と生、宗教と日常などなどである。そうしたアンビバレンツな傾向が彼の特色である。今回は、1920 年代から40 年代という時代、大震災をはさんで大正から昭和へと移っていくモダニズムと原風景が混在した時代状況のなかから、谷中の存在をみてみたいと考えた。
独特の表現によって安規ファンと呼ばれる熱狂的なファンがいるが、従来の谷中の愛好家と同時に、若い人達やそして今まで名さえ知らなかった美術愛好家の人々が数多く訪れていただけたのは心強かった。谷中芸術が時代をこえて人々を魅了し受け入れられるものであることが証明された。

展覧会情報

会期 2003年12月9日(火)~2004年2月1日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
※65歳以上の方及び障害者の方は無料
※毎週土曜日は小中学生無料
休館日12月15日(月)・22日(月)・29日(月)~1月3日(土)・5日(月)・13日(火)・19日(月)・26日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

展覧会図録

完売