瑛九

前衛画家の大きな冒険

2004年8月10日(火)~2004年9月20日(月)

瑛九は戦前から制作や美術評論を始め長い活動歴をもっていたが、美術史的な立場はいまだ明確ではなかった。前半期のシュルレアリズム傾向の作風はとりとめもなく、根無し草のように評価は低かった。一方、フォトデッサンと版画は例外で、それぞれの分野のなかに独自の表現として高く評価されていたが、部分的に腑分けするような評価であった。彼の様々に変転するメディアや表現の流れを見通すような視点が、ほとんど提示されていなかったのが現状である。
いちばん、わかりやすいのは久保貞次郎らと設立したデモクラート美術家協会での活動であるが、この団体そのものは、造形上の主義主張をともにするというわけではなく、既成の美術団体にたいするアンチテーゼという政治的な意味合いが強かったことで、瑛九の美術上の評価を助けることにはならなかった。そうした瑛九の全制作を俯瞰するとき、最晩年に制作した点描作品こそは、生涯を通底する造形感覚がありその総決算だと考えられる。浦和で48才の生涯を閉じる直前はデモクラート美術家協会の活動をやめ、仲間たちとも距離をおきながらも、点描による油彩画に没入している。光の中から生まれ出たような孤高の世界であり、原点回帰とも言えるそれらの制作は彼の芸術の到達点だった。
本展はその最晩年の3年間に焦点をあて、援助者との往復書簡や瑛九を撮した写真家玉井瑞夫のフォトエッセイとともに、彼のいう「大きな冒険とスリルの世界」に焦点をあてた展示である。アンフォルメル傾向がつよい1950年代の美術状況のなかで、瑛九は孤立した表現を見せていたのは違いないし、それゆえ評価がおくれ、それゆえ評価が高いのも事実である。地下1階の主会場には10数点の点描の大作と20点ほどの小品で構成された作品がならび、瑛九がもとめた点描作品に囲まれた様子を再現できたに違いない。関東で油彩画を中心にした本格的な瑛九展が開かれたのは久しぶりであったことや、長く日の目をみなかった代表作《田園B》という作品が展示され、点描の大作のほとんどが一堂に会することができたことは貴重だったとおもう。

展覧会情報

会期 2004年8月10日(火)~2004年9月20日(月)
入館料一般300円 小・中学生100円
※65歳以上の方及び障害者の方は無料
※毎週土曜日は小中学生無料
休館日毎週月曜日
主催 渋谷区立松濤美術館
協力 宮崎県立美術館
展覧会図録

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価格:1,500円

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