本展は、明治末から大正期にかけて多くの美術家のパトロンとなった芝川照吉に焦点をあて、その幻といわれたコレクションを再現するように構成した展覧会である。芝川照吉はわが国で一二を誇った羅紗問屋であった芝川商店の創業者一族の人間であり、美術作品の購入、画家の留学費用、展示場建築への出資、美術団体への援助など広く美術界に貢献した。そのエネルギーは、実業よりもほぼ美術家との交流に費やされ、美術家らとのサロン的な交わりを継続した。大正12(1923)年に芝川は病没するが、その時には1000点をこえる作品を蒐め、近代洋画のコレクションとしては当時では最高の質量であった。その範囲は青木繁にはじまり、岸田劉生を中心とした草土社の画家たち、浅井忠や石井柏亭のまわりに集まった画家たち、そして藤井達吉や近代工芸家たちなどにおよんでいる。こうした中堅から新進の美術家にたいする援助を惜しまなかった芝川の存在は、近代洋画が展開するうえにおいて、とくに在野の若い有望な人材にとって大きな支えとなったことは間違いない。
展覧会の構成は、散逸したコレクションを再現するように試みたが、いかんせん多くの作品は行くえがわからなかった。とはいえ、岸田劉生、青木繁、藤井達吉などのコレクションの中核を占めた作品群の展示風景は圧巻であった。また、芝川自筆のノートや書簡類など多くの遺品も現存し、芝川の人物像をも明らかにすることができた。そして展覧会後には、日比谷美術館への出資や藤井達吉との関連など美術界にコミットしていた貴重な事実も発見されるという副産物もあった。また、本展で展示された藤井達吉の多数の作品は、未だ一般には評価のなされていない彼の代表作であり、将来的には、藤井の再評価に大きな意味を持つことになると思われる。その名を広く知られた大原孫三郎や松方幸次郎らの活動する以前の、日本近代洋画におけるパトロン、コレクターの嚆矢としての存在と、大正の美術の展開に果たした役割を位置づけることができたことと、これだけの存在でありながら今日ではまったく知られていなかった芝川照吉を紹介できたことは何より有意義であった。
展覧会情報
会期 | 2005年12月6日(火)~2006年1月29日(日) |
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入館料 | 一般300円 小・中学生100円
※60歳以上の方及び障害者の方は無料 ※毎週土曜日は小中学生無料 |
休館日 | 12月12日(月)・19日(月)・26日(月)・29日(木)~1月3日(火)・16日・23日(月) |
主催 渋谷区立松濤美術館 |