昭和60(1985)年に日本の統治下に置かれて以後、台湾は、政治的に中国とは異なった道を歩んだばかりでなく、文化・芸術の面でも独自の展開を遂げてきた。50年後に中華人民に復帰してから、文化・藝術の面で「中国化」が進められ数十年が経過し、政治的・社会的変化の中で、台湾人の中に「台湾文化」に対する共通認識と探求が深まり、「台湾藝術」の形成と展開に対する関心が高まり、日本統治時代の美術に対する研究が進んでいる。陳進は、日本統治時代に活躍をはじめた画家で、生涯を藝術にささげ、20世紀の台湾美術の展開に大きな足跡を残した画家の一人である。
陳進は明治40(1907)年、台湾の裕福な家庭に生まれ、台湾第三高等女学校(現・中山女高)で日本画家郷原古統の教えを受け、卒業後、東京の女子美術学校(現・女子美術大学)に留学。女子美術学校卒業後は、鏑木清方の門に入り、清方、伊東深水などに学んだ。在学中に第一回台湾美術展に入選して頭角をあらわし、昭和9(1934)年の第15回帝展に台湾女性として初入選、その後も帝展、文展での入選を重ね、台湾画壇における地位を不動
のものとしていった。戦後、台湾に戻ったが、大陸からきた画家たちとの間に生じた、中国の伝統的絵画である国画と東洋画(=日本画=膠彩画)との対立の中で制作に悩むことになる。しかし、膠彩画技法による制作をつづけ、結婚、そして母親となって以後は、家庭生活を主題として平成10(1998)年に台北に歿するまで台湾女性画家の頂点として活躍し続けた。
「合奏」や「悠」に代表される前半生の作品は、伝統的な日本画技法により台湾の地方色豊かな女性像を描き、結婚後の後半生は、妻・母親・家庭人として日々の生活を慈愛の眼差しをもって描きつづけた。本展は、生誕百年を記念し、陳進紀念文化藝術基金会、台北市立美術館の協力を得て、陳進の代表作約80点及び素描などを陳列してその優れた画業を回顧するとともに、20世紀において独自の道を歩んできた台湾美術についても考察した。
本展の開催後、渋谷区に在住される方のご母堂が、臺灣、日本において陳進と親交が有り、陳進から贈られていた菊花図屏風が見つかった。これまで知られなかった作品であり、巡回先の兵庫県立美術館、福岡アジア美術館で陳列された後に、陳進の愛息である蕭成家氏に贈られたことを付記しておく。
展覧会情報
会期 | 2006年4月5日(水)~2006年5月14日(日) |
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入館料 | 一般300円 小・中学生100円
※60歳以上の方及び障害者の方は無料 ※毎週土曜日は小中学生無料 |
休館日 | 毎週月曜日 |
主催 渋谷区立松濤美術館 読売新聞東京本社 美術館連絡協議会
特別協力 財団法人陳進紀念文化藝術基金會 臺北市立美術館 後援 臺北駐日経済文化代表処 財団法人交流協会 学校法人女子美術大学 協賛 花王株式会社 協力 日本アジア航空 |