河野通勢(明治28(1895)年-昭和25(1950)年)は、二十才そこそこですでに天賦の才能をみせた早熟の画家である。ダ・ビンチ、デューラーなどルネサンスの画家に影響をうけ、粘りつくような徹底した写実描写で知られ、個性のおおい大正時代のなかでもひときわ異彩を放っている。関根正二に与えた影響、武者小路実篤や長与善郎をはじめとする白樺派との交流、岸田劉生の率いる草土社への参加など、美術史上の重要性でもかかせない存在だ。
近年になって、残されていたアトリエより大量の未発表作品が発見された。とくに十代後半から二十代前半にかけて執拗に描いた初期風景画や、聖書を題材にした作品群は圧巻だった。また挿絵や装幀の原画や銅版画、日記、スケッチ帖、書簡類など諸々の資料は膨大だった。
本展はこれまでにない規模で開かれた回顧展であり、この新発見作品の数々によって従来の画家像の再検討を迫られることになった。したがって出品作品は主要な油彩画を網羅したうえで、大部分が新発見の作品で占められていた。
その空想と聖性をはらんだ作品群は、奇想にも似た想像力を発揮する近代の画家のなかでは類例をみない表現だ。ともすれば岸田劉生の陰にみられる存在ではあったが、河野通勢という画家を読み直す絶好の機会となり、いままでにない全くあたらしい姿を発見できたと思う。
今回の展覧会は、河野通勢に深い関わりをもつ四つの美術館が共同で開催した。平塚市美術館、足利市立美術館、長野県信濃美術館そして渋谷区立松濤美術館である。渋谷との関係は、河野が上京した時にしばしば滞在しスケッチしたところが代々木や原宿であったということ、彼が参加した草土社の発祥の地であったことがあげられる。
なお、本展が平成20年度の美連協大賞を受賞することとなり、当館の地道な調査研究の成果を評価されたことは意義あることである。
展覧会情報
会期 | 2008年6月3日(火)~2008年7月21日(月) |
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入館料 | 一般300円 小・中学生100円
※60歳以上の方及び障害者の方は無料 ※毎週土曜日は小中学生無料 |
休館日 | 毎週月曜日 |
主催 渋谷区立松濤美術館 読売新聞東京本社 美術館連絡協議会
協賛 ライオン 清水建設 大日本印刷 三菱商事 |
展覧会図録
完売