世界の美術史をリードしてきたヨーロッパや中国では、迫真的な写実を追求する絵画が歴史上大勢を占めていたが、その周辺に位置した日本では、素朴な味わいに富んだ絵画が、時代を超えて盛んに描かれている。本展はそうした日本美術の特性をかなり広い視野でとらえようとした。
室町時代のお伽草子絵巻や、近世初頭の参詣曼茶羅や大津絵などの庶民的な絵画に最初の花を咲かせた素朴美は、江戸時代中期の禅僧白隠によって大きな転換をとげる。近世最大の禅僧である白隠は、人々への教化の手段として素朴な禅画を数千枚も描いたが、いずれも表面的な写実にこだわらずに心の内なる仏を率直に描き出そうとしたものであり、世界の絵画史でも稀な自由な自己表現であった。
また、浦上玉堂や岡田米山人らの南画家がアマチュアの立場で描いた山水画も、リアリズムにこだわらぬ清新な自己表現という点で高度な達成を示している。
近代を迎えて西洋美術の輸入に忙しくなると、素朴美はいったんリアリズムを追求する絵画の陰に隠れてしまうが、日本の伝統に眼が向き始めた大正から昭和の初期にかけて、素朴味あふれる表現は再び噴出する。禅画や南画の自由な自己表現に学ぼうとする画家も現れて、日本的な絵画が探求されたのである。
本展は以上のような認識のもとに、各時代の素朴味有る作品を選んで、その流れを描き出そうとした。まとまった点数を展示した白隠画や、これまで紹介されることの少なかった夏目漱石の南画や、孤高の画家である横井弘三の戦前の作品などが注目を集めた。
展覧会情報
会期 | 2008年12月9日(火)~2009年1月25日(日) |
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入館料 | 一般300円 小・中学生100円
※60歳以上の方及び障害者の方は無料 ※毎週土曜日は小中学生無料 |
休館日 | 12月15日(月)・22日(月)・24日(水)・29(月)~1月3日(土)・5日(月)・13日(火)・19日(月) |
主催 渋谷区立松濤美術館 |
展覧会図録
完売