ガラス絵

―ヨーロッパからアジアへの流れ―

1984年6月19日(火)~1984年8月5日(日)

ガラス絵は透明な板ガラスの裏から絵具を重ねていくという特殊な技法をもつ絵画である。一般的に普及している名称とは言いがたく、ステンド・グラスなどと混同されることが多かった。その意味でも貴重な展観であった。
佐藤春夫は「永久に新鮮な骨董」としてガラス絵の新しい評価をした。岸田劉生もこのガラス絵を数点蒐集していたと言われており、我が国でもその芸術性が徐々に評価され愛蔵されることが少なくない。明治末期から大正にかけて伝統的なガラス絵は姿を消し、小出楢重が現代作家としてガラス絵を制作して以来、現在は油絵作家により創作の一部として制作されている。
江戸末期、日蘭、日中貿易の交易品として長崎の出島を通して紹介されたガラス絵は、油絵具の光沢のある質感、写実的な表現になる明暗法、遠近法により、西洋絵画の特色を示すものとして珍重され受け入れられた。銅版画家の司馬江漢、さらには葛飾北斎らも興味を持ったと言われている。同時期に生まれた遠近感のみ強調された透視図法で描かれた眼鏡絵や、油絵具を日本古来の顔料で表現しようとした泥絵などと共に、明治前期に本格的に始まった油彩画の前史となっている。
今回の展観には技法、題材を地域・時代において比較し易いようガラス絵だけの陳列とし、日本で制作されたものばかりでなく、ヨーロッパ、中近東、インド、インドネシア、中国のガラス絵を約100点陳列した。中部ヨーロッパに起源を持つこのガラス絵がやがてヨーロッパ全域に拡がり、東西貿易により中近東を経てアジアに伝播された。その内容は多岐にわたり、地域に根ざした様々の図像が展開され“ ヨーロッパからアジアへの流れ” という副題が指すように伝播の東漸を辿る形となった。
民衆の中で生まれ、周辺の技法を摂取しながら発達し、サブカルチャーとして生き続けた素朴な美しさを充分鑑賞することが出来たことと思う。

展覧会情報

会期 1984年6月19日(火)~1984年8月5日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日第2日曜日及び他の週は月曜日、祝日の翌日
主催 渋谷区立松濤美術館
併催 特別陳列 渋谷区在住作家の作品
展覧会図録

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完売