特別陳列
大正の詩人画家 富永太郎
1988年10月18日(火)~1988年11月27日(日)
富永太郎(明治34(1901)年 -大正14(1925)年)は、大正期に夭折した詩人である。幼時より聡明で、絵を好み、府立一中から仙台の旧制二高に進み、そこで文学、絵画への道を歩み始める。人妻への失恋、退学、上海放浪、帰国、その間に、中原中也、小林秀雄らと交わり、ランボーやボードレールの詩を訳し、絵画研究所に通い、詩と絵画の制作をする。しかし、上海放浪時代に病を得、大正14(1925)年11月12日、24歳の若さで、当館にもほど近い代々木富ケ谷1456番(現在神山町22番地)の自宅で没した。その創作の期間は5年と、あまりに短く、残された作品も、詩が37編、絵画が18点と少ない。富永太郎は、自分が画家として立つか、詩人として立つか最後まではっきりしないままに壮絶な生涯を終えてしまったといえよう。しかし、残された少ない作品からは、富永太郎が「一つのスタイルを創り出す間際にあった」(大岡昇平『富永太郎の詩と生涯』本展図録所収)ことが認められる。本展を通して、富永太郎の芸術の全貌を
ふりかえるとともに、大正の時代の一つの青春の生きざまに思いをよせる人もあった
ことと思われる。
なお、本展終了後間もない12月25日、本展開催に御尽力くださった作家大岡昇平氏が、ライフワークとしておられた「富永太郎詩画集」の上梓を前に急逝された。当館での講演会後、少年時代を過ごされた美術館近くの故居のあとに立てられたマンションの一画の小料理屋で酒盃を傾けつつ、夫人や埴谷雄高氏らに往時を語られていた時の温顔を思いだすとともに、昭和の時代の終りを痛切に感じる。謹んで御冥福を祈ります。
展覧会情報
会期 | 1988年10月18日(火)~1988年11月27日(日) |
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入館料 | 一般200円 小・中学生100円 |
休館日 | 第2日曜日及び他の週の月曜日 祝日の翌日 |
併催 特別展 アメリカの水彩画 ―ホイッスラーからワイエスまで― |
展覧会図録
完売