特別陳列

野島康三とレディス・カメラ・クラブ

1993年2月7日(日)~1993年3月21日(日)

野島康三(明治22(1889)年-昭和39(1964)年)は、日本近代写真を代表する、すぐれた写真家である。近年その再評価は高まり、平成3年度に当館で開催した特別展「野島康三とその周辺」を機に、広く知られる存在となった。本展は、同展の続編ともいえる展覧であり、野島に関する調査を続けるうちに浮かび上がってきた、戦前の写真表現の知られざる一面を紹介するものである。
レディス・カメラ・クラブ(以下LCC)は、昭和12(1937)年に発足し、昭和14(1939)年には、戦時体制のために自然消滅してしまった、短命な写真同好会であった。野島が顧問格で指導にあたり、新しい高い教育を受けた、比較的裕福な層の女性たちがメンバーであった。当時は営業写真館以外のいわゆる芸術写真家は、職業として成り立たなかったから、彼女たちはプロではない。しかし、現像・焼き付けをこなし、大量の作品制作に没頭したメンバーもいたのである。今日、忘れられていることではあるが、そうした女性の写真表現者たちは、戦前にも、決してめずらしくはなかったのである。
本展では、作品の質及び作品の保存・保管状態ともにすぐれていた、土浦信子と松永(佐藤)田鶴江の二人を中心に、7人のLCCメンバーの作品を紹介した。戦災などのため現存作品が少ないことが悔やまれ、溝口歌子らの重要作家の作品を紹介できなかったが、彼女らの活動の一端をふり返ることはできた。女性の写真表現は写真史からほぼ完全に欠落しているのが現状だが、本展が今後の研究のきっかけとなればと期待している。
合わせて展示したのは、野島の当時の作品で、戦後初めて発表されたものばかりである。これらは、野島が被写体に女性たちの近代的な表情を選んだ理由と成果を示してくれた。LCCで交際した女性たちに、野島は新しい時代と新しい写真のあり方を感じ取ったのではないだろうか。躍動的で屈託がなく、純粋な彼女たちは、野島の白樺派的な教養を揺さぶり、きらめく光の繊細な動きを軽やかにとらえた写真へと、導いたように思われる。こうした、野島の別の面を紹介できたのも収穫であった。
なお、展示作品は、すべて当時のプリントである。

展覧会情報

会期 1993年2月7日(日)~1993年3月21日(日)
入館料無料
休館日2月8日(月)、12日(金)、14日(日)、15日(月)、22日(月)~3月1日(月)、8日(月)、14日(日)、15日(月)
併催 1993松濤美術館公募展(1993年2月7日(日)~21日(日))
併催 第11回渋谷区小中学生絵画展(1993年3月2日(火)~21日(日))
展覧会図録

展覧会図録

完売