渋谷区立松濤美術館は、昭和61(1986)年10月に開館5周年を迎えた。開館5周年を記念して、当館は渋谷区在住の彫刻家、堀内正和氏の彫刻展を開催した。堀内氏は開館当初より、当美術館の評議員を務め、「特別陳列 渋谷区在住作家の作品」に毎年出品している。
堀内氏は明治44(191)年、京都に生まれ、東京高等工芸学校彫刻部で学び、その後、早くも抽象彫刻を制作し、一貫して抽象彫刻を制作し続けている。明快な幾何学的形態の中にユーモア感覚を盛り込んだ独自の芸術によって、現代日本彫刻界に確固とした地歩を築いた。昭和38(1963)年、第6回高村光太郎賞受賞、昭和42(1967)年第9回アントワープ国際彫刻ビエンナーレに出品、昭和44(1969)年第1回国際彫刻展で大賞を受賞するなど数多くの展覧会に出品、受賞を重ねている。更に、京都市立美術専門学校(現京都市立芸術大学)の教授を務め、美術教育にもたずさわってきた。
本展は、氏の多数の作品の中から、初期の具象彫刻から各時期の代表作、特に最近の秀作を網羅して彫刻51点、氏の制作課程を窺える紙模型、版画、デッサン18点を加えて、全69点で構成した。主な出品作としては、初期の具象から抽象への推移を示す「壺」、「Cubi」、線と面の構成時代の「五つの正方形と五つの長方形」、「四角と丸の組み合わせ」、円筒、円錐シリーズの「偶像」、「海の風」、「しかくい枠のなかのねじれた枠」。そして昭和40年代からの、「お尻があつい」、「Androgynos」、「のどちんことはなのあな」、「箱は空にかえってゆく」、「Cubes et tubes」などは幾何学的形体に人体を複合させたエロスとユーモア感あふれる作品である。その後、「円筒をななめに通りぬけるもう一つの円筒」などの貫入彫刻シリーズ、「三つの立方体C」などの三つの立方体シリーズ、三本の直方体シリーズの作品群、そして「体積が等しい五つの半円柱」などの最近5、6年の単純形態を組み合わせた作品などの構成により氏の芸術的様式の発展、展開が窺える展覧となった。
堀内正和氏の長年の業績と本展の展覧に対して、昭和61年度の毎日芸術賞が授与されたことは、開館5周年記念特別展としての本展の成功と意義の大きさを物語るものであると考えられる。
展覧会情報
会期 | 1986年9月30日(火)~1986年11月24日(月) |
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入館料 | 一般200円 小・中学生100円 |
休館日 | 第2日曜日及び他の週の月曜日 祝日の翌日 |
主催 渋谷区立松濤美術館 |
展覧会図録
完売