福武コレクション

国吉康雄

1987年5月26日(火)~1987年7月19日(日)

近代日本の美術が、ヨーロッパとくにフランスの圧倒的影響のもとに展開してきたのは周知の如くである。それに比して、美術における日本とアメリカの関係は極めて希薄であった。美術のうえでは、アメリカ自体が、今世紀初頭にヨーロッパの影響を脱しつつ独自の展開を遂げるに至るまでは、日本同様に後進国であったためである。しかし、日米両国の美術における関係が皆無であったわけではなく、アメリカ美術が独自の展開を始めたこの時期に、アメリカで学び、アメリカ美術界で活躍した日本人たちがいる。清水登之、野田英夫、石垣栄太郎、国吉康雄らである。彼らは、日系二世の野田を除き、移民として渡米し、働きながら学ぶなかで美術にたいする眼を開いていった。なかでも、アメリカ絵画史において大きな足跡を残した日本人画家、それが国吉康雄であった。
国吉康雄は、明治22(1889)年に岡山に生まれ、17歳で単身渡米し、働きながら学ぶなかで画才を見いだされ、ロサンジェルス、ニューヨークの美術学校で学び、昭和4(1929)年にニューヨーク近代美術館で開催された「19人の現存アメリカ作家展」に最年少で選ばれ、「アメリカ画家」としての地位を確立した。また、昭和19(1944)年に「アメリカ合衆国絵画展」で一等賞を受賞、昭和22(1947)年にはアメリカ美術家組合の初代会長に就任、昭和23(1948)年には、ホイットニー美術館で大回顧展が開催されるなどの輝かしい足跡を残して、昭和28(1953)年にニューヨークでガンの為に没した。
本展では、国吉康雄の生地岡山に本社を置く福武書店のコレクションの中から油彩、素描、版画、写真作品など130点を陳列した。初期の幻想的な作品から、憂愁と情感にみちた女性像に代表されるアメリカン・シーンの作品、さらに、晩年の道化や仮面を描いた象徴的画風の作品までを含む充実したコレクションは、国吉康雄の画業の全貌を語ると同時に、それらの作品は今世紀前半、アメリカに渡った日本人移民が受けた人種差別の苦しみ、戦時下における苦悩、さらには、大恐慌下の社会問題を如実に伝えるものでもあった。
本展を通して、過去の日米関係、そして現在、将来の日米関係に思いをはせた人もいたのではなかろうか。

展覧会情報

会期 1987年5月26日(火)~1987年7月19日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日第2日曜日及び他の週の月曜日 祝日の翌日
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売