本展は京都国立近代美術館の協力を得てその収蔵品の中から、20世紀前半のアメリカに焦点をあてその代表する写真家16名による154点の写真を陳列した。
写真には記録性と芸術性という二つの意味がある。つまり、現実の光景を瞬時にしてありのままの姿を写し取ることができる。また、芸術の一分野として造形表現をも可能にしていった。20世紀に入りアメリカではそうした写真の特性を追求し展開していった。
アメリカの写真は「近代写真の父」と呼ばれるアルフレッド・スティーグリッツの出現により大きく変貌する。それまでの写真が絵画的な表現や主題を模倣したピクトリアルなものであったのに対し、スティーグリッツはフォト・セセッション(写真分離派)運動を展開し写真独自の表現を認め、その芸術性を提唱した。写真特有の機能を使い眼で捉えた現実をそのままに定着しようとした。一方でそれは、アーモリー・ショー以来ヨーロッパの美術を吸収しながら独自の表現を形成しようとしていたアメリカ美術が孕む時代の流れ
にも呼応するものであった。
アメリカの写真の独自性とはその社会と大地によるものである。工業化社会の発展ににる巨大な都市の形成、その対比として雄大な高野の広がる大自然の存在という二面性、その光景はアメリカそのものの象徴であった。摩天楼あるいはそこにうごめく人々や、大自然のなかに写真家は被写体を見いだした。F64グループのメンバーであったエドワード・ウェストン、アンセル・アダムス、イモジェン・カニンガムは雄大な自然を題材に神秘性とそのメカニズムを鮮明に再現した。ドロシア・ラングはFSA(農業安定局)に参加し
大恐慌以後の農業の状況を記録し、貧困に喘ぐ農民の姿をありのままに写しだした。ユージン・スミスの活動は『ライフ』などのジャーナリズムと結びつき社会矛盾を告発する大きな力となった。
20世紀前半のアメリカの写真は現実のあらゆる真実を再現できると信じ、記録することで芸術性を獲得していった。本展に見られるような偉大な写真家たちが輩出しアメリカの写真は黄金時代を迎えることとなる。
展覧会情報
会期 | 1988年12月13日(火)~1989年1月22日(日) |
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入館料 | 一般200円 小・中学生100円 |
休館日 | 第2日曜日及び他の週の月曜日 祝日の翌日 年末年始 |
主催 渋谷区立松濤美術館
後援 京都国立近代美術館 |
展覧会図録
完売