三雲祥之助は明治35(1902)年京都に生まれ、昭和57(1982)年に80才の生涯を終えた。ヨーロッパで油絵を学んだ三雲は、帰国後、春陽会などを中心に意欲的に作品を発表し続けた。また、武蔵野美術大学教授として後輩の育成に尽力し、教育者としても大きな功績を残した。更に、美術に関する著述を発表し、美術雑誌にも多くの評論を寄せるなど多方面の分野で活躍した。
三雲の画業は10年間に及ぶヨーロッパ生活から始まる。京都大学を中退した三雲は、大正14(1925)年渡仏し、サロン・ドートンヌにも入選を重ねるようになった。南仏、スペインなどに題材をとった作品は堅牢な写実をもとにした作品である。昭和10(1935)年の帰国から第二次大戦そして戦後の復興期までは、庶民生活や風俗を描くかたわら、卓上の静物など身辺の題材を愛情込めて描いた。
1950年代になると、三雲の関心は、形態の単純化と立体感、画面構成などに注がれた。その前半期には、画家とモデル、室内など自己と日常の事物をテーマとし、大らかな線と色面による画面の明るさ、節度感を示している。しかし、後半期には、画面は一転して明暗のコントラストとヴォリューム感を強調した力強い作風へと変化する。「パリスの審判」や「サロメ」といったギリシャ神話や聖書から題材を採ったテーマを群像形式で表現した作品が多く描かれた。
1960年代になると、筆のタッチを強調した事物と背景が同化し、混沌とした情緒的具象スタイルに変化してゆく。しかし、1970年代から80年代初頭の晩年期は、様式上の様々な実験、試行錯誤の成果が昇華・総合された円熟期であった。この時期の中心的テーマは女性像であった。その前半は端正な女性像、後半は柔かな筆触とニュアンスのある色彩による裸婦像に本領を発揮した。これらの女性像は気品あるエロティシズムを堪えており、三雲が追求した豊かさと生の喜びが表現されている。
本展は、武蔵野美術大学所蔵作品を中心に、油彩画80点に、デッサン、彫刻などを加えた110余点の代表作で構成された。昭和の60年間画業を積み重ねた三雲祥之助の大回顧展であり、多くの人々の注目を集めた。
展覧会情報
会期 | 1989年8月8日(火)~1989年9月24日(日) |
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入館料 | 一般200円 小・中学生100円 |
休館日 | 8月13日(日)・14日(月)・21日(月)・28日(月) 9月4日(月・10日(日)・11日(月)・18日(月)・19日(火) |
主催 渋谷区立松濤美術館 |
展覧会図録
完売