秋山泰計の版画

1989年12月19日(火)~1990年2月4日(日)

本展は、秋山泰計の木版画のうち主要作すべてを含む71点のほか、フロッタージュや染色作品など総数80余点を展観し、ユニークな芸術家の軌跡を展望しようとした。
秋山泰計と昭和2(1927)年高松に生まれ、昭和61(1986)年同地で没した版画家である。彼は「おびからくり」などの奇抜な紙造形を数々発案した、ユニークなデザイナーとして著名であったが、東京藝術大学で漆工芸と彫刻を習得し、それぞれに際立った才能を見せるというように、極めて多才で好奇心の旺盛な作家であった。昭和31(1956)年、芸術を捨てるかのように卒然とブラジルに渡るが、創作意欲やみがたく、この地で始めた版画製作はついに彼の一生の仕事となった。
秋山泰計の版画は木版画が主要なものであるが、作風上前期と後期に大きく分けられる。前期はブラジル滞在中から始められ、昭和41年頃、作者40歳頃までの、リアリスティックともヒューマニスティックとも評されるような版画群で代表される。重量感あふれる人物像や熱気に満ちた風景画は、若い作者の情熱と苦悩を反映して表現主義的であり、描く対象のリアリティに作者の感情を盛り込もうと努める姿勢が見られる。ところが、後期に移行するにしたがって、画面は観念的・装飾的となり、ユーモラスで諧謔的な作風になる。表面に打ち出されていた作者の感情はしだいに画面のうしろに隠されていき、事象を抽象し戯画化する醒めた眼が支配的となる。といって、作者の心情や姿勢が冷めてしまったり消極的になったわけではない。人間や動物、生きとし生けるものすべてが渾然と、ほとんど無規律にひしめきあうような画面を持つ晩年の作品群には、社会や人生の激流に飲み込まれつつも、その中で懸命にもがく人間の姿が、辛辣ではあるが同時に暖かいまなざしをもって描かれているのである。
このような秋山の画業を振り返ってみると、彼が終始一貫して“人間”を正視しながら表現したことに気づかされる。秋山はその刀の切れの冴えのごとく俗事には無欲で潔癖な人物であったが、特にかれの小品からは事物の観照における繊細さや情味が感じ取れ、かれの温かい人柄がよく示されている。

展覧会情報

会期 1989年12月19日(火)~1990年2月4日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日12月25日(月)・26日(火)・29日(金)~1月3日(水)・8日(月)・16日(火)・17日(水)・22日(月)・29日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売