野島康三とその周辺

―日本近代写真と絵画―

1991年7月16日(火)~1991年9月1日(日)

野島康三(明治22(1889)年-昭和39(1964)年)は、大正期の絵画主義写真の全盛時代と、昭和初期から始まる新興写真の双方の時代にわたって活躍した。日本近代写真において、最も重要な写真家のひとりであるが、その作品の全容が紹介されたのは、これが始めての機会であった。
現在までの日本の写真史は、ともすれば、絵画や彫刻などの他の視覚的表現分野から隔離されたかたちで記述されがちであったが、実際には、作風や表現の考え方の上でも、作家たちの交流の面でも、またさらには写真の利用のされかたに関しても、密接なつながりがあったことは事実である。野島というひとりの人物が、絵画にも興味を持ち、彫刻家や文筆家とも親しく交わり、芸術全般のパトロンとしても活躍したほか、画廊経営、出版活動にも大きな業績を残したことから、本展では、この面を重視し、彼の写真作品を、同時代の親しかった洋画家たちの作品とともに展示し、その係わりをあらたにかんがえる機会を提供するよう努めた。
野島が最も数多く作品を残している、絵画主義(ピクトリアリズム)の写真は、非常に精緻な技術を要して、手作業で印刷を行うもので、その陰影の美しさと表現力の強さにおいて、野島作品をはじめとする、日本の近代が生み出した作品群は、ユニークな個性を世界的に認められるべき質の高いものであるが、戦後は、“写真らしくない写真”として評価を
受けないままであった。本展で紹介された野島作品の圧倒的な密度は、そうした今までの評価を考え直す機会を広く提供したという点でも、特筆されるであろう。 また、野島は、絵画主義(ピクトリアリズム)の写真から一転して、光や被写体、印画技法のすべてを大きく変えて、新興写真へと取組みはじめ、再び大きな成果をあげたが、その変化の動機、および経緯について今後の研究であきらかにすることができれば、より大きな時代のながれを記述するための貴重な証となるであろう。
 なお、本展は、京都国立近代美術館との共同企画として開催された。

展覧会情報

会期 1991年7月16日(火)~1991年9月1日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日7月22日(月)・29日(月) 8月5日(月)・11日(日)・12日(月)・19日(月)・26日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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価格:1,500円

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