中国の漆工芸はじつに五千年に及ぶ歴史をもっており、日本をはじめ東洋各地の漆工芸の母体とも言うべき存在である。現在でこそ漆器について“japan”という英語が用いられているが、我が国の漆器の技法も、そのほとんどが中国において生み出されたものである。
漆工芸の歴史は、器胎装飾技法の発展の歴史と言い替えることができる。古く漢代を中心として漆絵の技法が全盛を誇ったが、唐代以降には幾重にも塗り重ねた漆の層から細密な文様を彫り出す彫漆の技法が登場し、もっとも一般的な技法として広く行われた。この技法で飾られた盆や椀は即座に我が国にも輸入され、堆朱や堆黒の名称で珍重されたのである。中でも全面に曲線的な幾何文様を彫り出した意匠が特徴的であるが、日本ではこれを特に屈輪と呼んで愛好し、同種の文様は鎌倉彫りなどにも取り入れられた。さらに、漆の表面を針彫りし、そこに金箔を埋め込んで文様をあらわす鎗金(我が国では沈金と呼ぶ)、線彫りした区画内を彩漆で埋めて文様をあらわす塡漆(我が国では存星)、薄く切った貝片をはめ込んで文様を作り出す螺鈿といった様々な技法も考案され、中国漆工芸の世界は、ますます豊かなものとなっていったのである。
中国の漆器は、保存が難しいといった理由もあって、まとまったコレクションは世界的に見てもごくわずかである。そうした中で、今回公開することができたコレクションは、その質と量はもちろん、用いられた技法の多様さという面でも屈指のものであろう。展示総数は123点を数えたが、宮廷周辺で使用されたと見られる皇帝の象徴である龍の文様がほどこされた第一級の作品も多く含まれるなど、開館十周年記念特別展を飾るにふさわしい内容であった。
展覧会情報
会期 | 1991年9月17日(火)~1991年11月4日(日) |
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入館料 | 一般200円 小・中学生100円 |
休館日 | 9月24日(火)・25日(水)・30日(月) 10月7日(月)・11日(金)・13日(日)・14日(月)・21日(月)・28日(月) |
主催 渋谷区立松濤美術館 |
展覧会図録
完売