文明の十字路・ダゲスタン

―コーカサスの民族美術―

1992年6月3日(水)~1992年7月19日(日)

ロシア連邦の一部であるダゲスタン共和国は東をカスピ海に臨み、西と南をけわしいコーカス山脈が連なる複雑な地形の国で、北東コーカサスに属している。この地域は古来より、幾多の民族が侵入し、融合を繰り返してきた。ダゲスタンはアジアとヨーロッパの接点であると同時に、北方ステップの騎馬遊牧民族世界と西アジアの農耕定住社会とを結ぶ文明の十字路的役割を果してきた。
他方、山岳地帯を中心に、アヴァール、ダルギン、クムイクなど30を越す民族がモザイク状に居住し、極めて地域性の強い固有の伝統文化を育んで今日に伝えてきている。中でも、ダゲスタンの金属工芸は、精巧なデザインと高度な技術により、中世以来周辺諸国に名声を馳せていた。特にダルギン人の村クバチ村の金属工芸が名高い。又、アヴァール人の村ウンツクルでは銀象嵌の木工が盛んである。絨毯製作ではフチニ、デルベントが、フェルト製作ではラハタ村などが有名である。陶器はイスピク、スレフケントなどで作られ、ラック人の村バルハルの低火度の無釉土器もよく知られている。ダゲスタン工芸の製作者は金属器などを除いて主に女性達であったといえる。
本展はダゲスタン文化省の熱意と好意により、首都マハチカラ所在のダゲスタン共和国美術館及び、ロシア科学アカデミー・ダゲスタン学術センターの2ケ所が所蔵する貴重な作品を外国に公開したものである。ダゲスタン美術館からは、金属器、木工芸、敷物、染織品、陶器、装身具、生活用品などの粋ともいえる作品の数々を、学術センターからは、1万2千年前の石器から、青銅器時代の金属製品、土器そして中世イスラムの陶器を初めとする考古遺品の数々を公開した。その中には、東西南北の文化交流を証明する遺品として、古代エジプトのスカラベ、バルト海の琇珀、プトレマイオス朝やビザンティンの貨幣、イランの陶器、遊牧民のバックル、中国、宋代の青磁など貴重な作品約200点が出品された。
ダゲスタンは長年外国に国を閉ざしていたため、その文化と美術の実態は殆ど海外に知られていなかった。ダゲスタンの民族の貴重な文化遺産がこれほどの規模で海外に公開されたのは初めてのことであり、ソビエト連邦が崩壊し、ロシア連邦が形成された激動期のロシア情勢と合いまって、民族とその文化遺産を公開した本展は多くの人々の注目と関心を集めた。

展覧会情報

会期 1992年6月3日(水)~1992年7月19日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日6月8日(月)・14日(日)・15日(月)・22日(月)・29日(月) 7月6日(月)・12日(日)・13日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
後援 外務省 在日ロシア連邦大使館
特別協力 ロシア連邦ダゲスタン共和国美術館 ロシア科学アカデミー
     ダゲスタン学術センター 国立民族学博物館
展覧会図録

展覧会図録

完売