中野恵祥

―板金の造形―

1992年9月30日(水)~1992年11月15日(日)

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中野恵祥(明治32(1899)年-昭和49(1974)年)は、ほぼ昭和時代を通して活躍した金工家である。始めて工芸部門が設けられた第八回帝展(昭和2(1927)年)に28歳の若さで初入選して以来、戦後まもなくの第三回日展(昭和22(1947)年)に出品した「双鳥鈕香炉」(東京藝術大学芸術資料館蔵)が特選を受賞するなど、帝展・文展・日展を中心に、意欲的な作品の発表を続けた。
恵祥は、幼少より白崎白善や香取秀真に師事して、彫金・鋳金・打出しなど、金工全般にわたる幅広い確かな技術を身につけていたが、展覧会出品作として世に問うたのは板金による作品であった。鋳金をはじめとする伝統的な金工の仕事にも終生たずさわり続けたが、日展等への出品作には、板金を用いた現代的な感覚のものにこだわった。それは真鍮などの板金を折り紙のように自由に組み立てて、蛙や牛といった身近かなモチーフを作り出したもので、従来の金工作品の重々しいイメージとは異なる軽快な作品群であったが、写実と抽象をほどよく織り混ぜることによって、金工という伝統的なジャンルに、大胆で清新な造形感覚を吹き込もうとする企てであったと言えるだろう。
今回の展観では、日展などに出品した代表作を中心とする89点を選んで、彼の芸術の軌跡を振り返った。世に出ることを嫌って黙々と仕事を練けた恵祥は、これまで知る人の少ない存在であったかと思われる。今回の本格的な規模のものとしては初めての回顧展によって、中野恵祥の名は、板金という身近な素材に現代的な感性を表現した作家として認知されたものと思う。

展覧会情報

会期 1992年9月30日(水)~1992年11月15日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日10月5日(月)・11日(日)・12日(月)・13日(火)・19日(月)・26日(月) 11月2日(月)・4日(水)・8日(日)・9日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売