片瀬和夫

―なげるかげ―

1993年6月9日(水)~1993年7月18日(日)

渋谷区立松濤美術館の建築は、日本の美術館建築の中でもきわめてユニークなものである。外観や建物中央の池だけではなく、展示空間も個性的で、高さ6.4mの湾曲した壁面をもつ扇型の地下1階陳列室と、それとは一転してこじんまりしたベルベット張りの壁面の2階陳列室からなり、2階は喫茶室も兼ねている。こうした建築物の特性を十分に活かすために、今までも色々と絵画や彫刻をオーソドックスに展示する以外の方法を検討してきた。そして本展では、主としてインスタレーションの手法で作品を発表している作家、片瀬和夫氏の個展ということで、この課題とも本格的に取り組むことになった。
片瀬和夫氏は昭和22(1947)年静岡に生まれ、昭和50(1975)年に単身ドイツに渡って以来カッセルに居を定め、ヨーロッパを中心に世界的に活躍する現代作家。日本での発表の機会は20年ぶりで、本格的な個展は初めてであった。片瀬は写真ネガを用いて、光、オブジェ、ガラスなどと組み合わせ、瞑想的な空間を作り出すことで知られ、そこに社会的問題意識や東洋的思想の理解を示してきた。今回は、地下1階展示室に日本で制作する新作インスタレーションを1点、2階特別陳列室には既発表のインスタレーションを特にアレンジしたものを設置し、2階サロンミューゼにはこれまでの代表的な写真作品を展示することとなった。
新作《なげるかげ》は、光と陰を対立物ではなく反転しあう関係物としてとらえる片瀬の存在論の集大成となる作品で、日本での発表ということもあり、障子をイメージした光の間と西洋建築をイメージした陰の間を併置するものであった。二つの「間」の製作には日本の職人的技術の粋を活かして成功し、自然光と人工光の両方の効果が作用して、設置物と展示室空間の特性が調和し、説得力のある作品となり、反響を呼んだ。
展覧会カタログも作家自身のデザインにより、これまでの仕事の集成がとらえやすいものとなった。

展覧会情報

会期 1993年6月9日(水)~1993年7月18日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日6月13日(日)・14日(月)・21日(月)・28日(月) 7月5日(月)11日(日)・12日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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価格:2,500円

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