フィリップ・バロスコレクション

絵はがき芸術の愉しみ

―忘れられていた小さな絵―

1993年8月4日(水)~1993年9月12日(日)

本展は仏人蒐集家フィリップ・バロス氏の3000点を越える日本の絵はがきコレクションのなかから厳選した653点を展示した。絵はがきは明治末から昭和初期にかけて大流行したのだが、本展ではそのなかからとくに絵画的に優れたものを主眼として選定された。
これらの絵はがきには当時の様々な分野の有名無名の作家がたずさわり、豊かな発想で表現を展開している。日本画家では橋本雅邦、鏑木清方、梶田半古、平福百穂など、洋画家では浅井忠、中村不折、岡田三郎助、和田英作など、版画家では太田三郎、橋口五葉、前川千帆など、また風刺・挿絵画家の竹久夢二、蕗谷虹児、中沢弘光、高畠華宵、一条成美、杉浦非水、墨池亭黒坊などがいた。時代を反映し、浮世絵風のものからアールヌーボー調まで多彩さがみられるとともに、大きな画面では見られない奇抜な発想や洒落た表現も見逃せない。そのなかでも特筆すべきは墨池亭黒坊であろう。彼の経歴は不明であるがその卓抜した着眼点と葉書の小さな画面におさめる構成力は見事である。
現在より情報の伝達手段に乏しかったこの時代、安価で大量に出回る絵はがきはたんに通信手段である以上の役割を担っていた。現在もよく見かける観光地の土産物屋にあるようなものや美術館で売っている名画の複製といったものから、女性のブロマイド様のもの、広告宣伝用に制作されたもの、事件や出来事の報道記録用に発行されたものなど様々である。
 こうしてみると、絵はがきの大流行のなかには明治末から昭和初期にかけての雑誌、新聞、写真、版画などの複製文化の進展と広範な広がり、さらには美術の大衆化が見て取れ
るだろう。多くの人々はこうした過程において、複製物により視覚的な擬似体験を得るとともに、そこに写された事物は潜在的に人々の共有する図像となってゆく。今一歩視点を深めるならば絵はがきの大流行とは文化あるいは美術の大きな流れの一端であったことがわかるであろう。
当時の風俗習慣がしのばれるという方々をはじめ、絵はがきに興味のある人々などや様々なジャンルにまたがった様式であることを反映した多くの入館者の人気を集めた。

展覧会情報

会期 1993年8月4日(水)~1993年9月12日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日8月8日(日)・9日(月)・16日(月)・23日(月)・30日(月)・9月6日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館 朝日新聞社
後援 フランス大使館
展覧会図録

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完売