しずく形、勾玉形をしたペイズリー文様は華やかでかつ動的な印象を与える為、男性のネクタイから女性のバック、スカーフ、ドレス、室内装飾にと、服飾、デザインのあらゆる分野に巾広く使われている。現代社会の装飾デザインで王者の如く感じられるペイズリー文様は、どのようして生まれ、発展して日本をはじめとする世界に広まったかを実物の染織品などによって分かりやすく示し、それが表現された様々なテキスタイルの美を示すのが本展の目的であった。更に、ペイズリー文様はインドを中心に東南アジア、西アジアそしてヨーロッパにまで広がって様々なヴァリエーションを生んでいる。本展では地下1階の第1展示室に、インド、イラン、東南アジア、中央アジアの染織品を、2階のサロンミューゼに、ヨーロッパのショールなどの染織品を陳列して、アジアと西欧の文様に表現された、造形意識、デザイン感覚の相違を対比させてみせることを心がけた。更に、アジアの手織に対して、ヨーロッパのジャカード機械の発明による機械織りの相違も理解できたかと思う。
もう一点は、インドの17世紀のムガール王朝の王侯貴族の着用する着物やショールの裾にほどこされた一本の草花がしだいに複雑化し、曲がって、伸びてゆく様を18世紀後半の王侯ショールの実物展示などによって示した。それはしだいに大型化していって文様がショールの中央部分をおおいつくし、文様が大きなデザンを構成するようになる。このようなショールの発展の歴史を、初期のショール、幅広のショール、19世紀後半のインドのショール、更に、ヨーロッパにおける19世紀のショールの変遷をも実物展示によってたどれるように構成した。
本展の特徴の一つは、17世紀にカシミールでペイズリー文の発生をうながしたと思われるイランのサファヴィー朝、カジャール朝の草花文様を示す染織品の逸品を展示したことである。第二に山辺コレクション、平山コレクションの協力を得て、初期ペイズリー文のインドの染織品と、19世紀後期のショールの逸品、インドの貴族の貴重な染織品などが展示できたこと。第三に、ヨーロッパのデザイン意欲を表現する19世紀のフランス、ドイツのデザイン画を、津和野の亀井コレクションから借用して展示できたことも本展を豊かな内容にした一因であった。
展覧会情報
会期 | 1993年12月1日(水)~1994年1月30日(日) |
---|---|
入館料 | 一般200円 小・中学生100円 |
休館日 | 12月6日(月)・12日(日)・13日(月)・20日(月)・24日(金)・27日(月)・ 29日(水)-1月3日(月)・9日(日)・10日(月)・17日(月)・18日(火)・ 24日(月) |
主催 渋谷区立松濤美術館 |
展覧会図録
完売