辛亥革命後、中国は急激な変革を迎え、あらゆる面で近代化に向かって歩み始めた。絵画においても、西洋や日本の影響を受けつつ新しい中国絵画が上海を中心に展開されていっ
た。そうした中で、中国の伝統的絵画を継承し、中国古典絵画の研究を通し、優れた天分により、独自の絵画世界を創造し、中国絵画史上に一つの金字塔を樹立したのが張大千である。
張大千は1899 年に四川省で生まれ、明末清初の石濤、八大山人から遡り、董源、巨然、王蒙などの古典的絵画を研究し、ついで敦煌に赴き、敦煌壁画の臨摹に努めた。中国に共産党政権が誕生して後は、ブラジル、アメリカなどに住みつつ欧米各国や香港、台湾に往来し、各国で展覧会を開催して国際的にも活躍、また、1956 年にはピカソとも交わりを結び、後年には「東洋のピカソ」とも称されている。1957 年に眼を患って以後は、潑墨潑彩による独創の絵画世界を形成し、1976 年に台湾に帰り住み、1983 年に台北に卒した。
日本との関係は極めて深く、青年時代に兄で虎の画を善くしたことで知られる張然孖とともに日本に留学したのに始まり、香港、台湾への往復の途次には日本に立ち寄り、眼病の
治療や、日本で画材を購入して多くの作品を日本で制作している。晩年の潑墨潑彩の作品には、日本画のたらしこみの技法が応用されているともいわれる。
梅雲堂は、張大千と四十余年の長い交わりを持った高嶺梅氏と夫人の詹雲白女士及びその十一人の子女が、張大千の藝術を広く伝え、併せて中国近代絵画に対する国際的認識を高
めるために創設したもので、張大千藝術を語るうえで不可欠な作品を多数所蔵していることで知られ、これまでにも香港、台湾、東南アジア各国、欧米での展覧会はその所蔵品が数多く出品されている。
本展では、梅雲堂所蔵の張大千絵画120 点を陳列し、早期の古典研究をもとにした清新俊逸な画風の作品から、敦煌壁画を学んで以後の中期の瑰偉雄奇な作品、そして晩年の潑墨潑彩による独創の絵画世界の形成に至るまでの張大千の画業を回顧した。また、奈良大学の古原宏伸先生より、張大千を中心とする倣の問題について御講演いただいた。中国画の倣古と創新の問題について考える一つの良い契機になったと思われる。
展覧会情報
会期 | 1995年4月5日(水)~1995年5月21日(日) |
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入館料 | 一般200円 小・中学生100円 |
休館日 | 4月9日(日)・10日(月)・17日(月)・24日(月) 5月1日(月)・8日(月)~11日(木)・14日(日)・15日(月) |
主催 渋谷区立松濤美術館 |
展覧会図録
完売