日本の象牙美術

―明治の象牙彫刻を中心に―

1996年8月13日(火)~1996年9月29日(日)

世界において、象牙を中心とした動物の牙、角、骨を加工した、いわゆるアイヴォリー使用の用具、彫刻、工芸品はおびただしい数量を数える。太古の昔から人間は、動物の骨角製品を多用してきた。
日本では、奈良時代の正倉院の工芸品の数々に象牙を使用した作品例をみることができる。木工品は象牙を細かく象嵌した木画技法の箱や楽器、更に紅や紺色に染めて文様を白く彫り抜いた撥鏤(ばちる)技法の作品など世界的に最高水準の工芸品が伝わっている。室町から江戸時代にかけて、床の間の飾りの品々に象牙が使用されるようになり、特に戦国大名の高価な茶入れの蓋や茶杓に用いられた。江戸時代は町人の間で印籠や根付の材料としてもてはやされ、更に、煙管筒や矢立、女性の櫛、簪など広範囲に使用された。
幕末から明治にかけて、社会が変動して根付がすたれ、代わって明治10年代から、象牙を丸彫りした置物彫刻が盛んに制作された。これらの牙彫り置物彫刻は、木や漆器に貝や象牙を象嵌した芝山象嵌漆器の家具、調度品などとともに、内国勧業博覧会や諸外国万国博覧会に出品され、海外に盛んに輸出されたが、後期にはそのブームも去った。近代のモダニズム芸術の陰に埋もれた感のある象牙彫刻だが、明治中期には、旭玉山、石川光明、島村俊明の優れた牙彫作家が輩出して、木彫復活への契機と橋わたし役を担ったとされている。
本展の構成の一要素としては、象牙の着色技法の継承がある。着色技法は古代エジプトから存在する技法で、日本では正倉院の撥鏤技法以後消滅し、江戸の柳川技法の櫛に復興する。更に根付の一部にもみられ、明治以降、安藤緑山の着色置物となって受けつがれてゆく。そして現代に継承されてゆく。本展は、村松親月氏による、撥鏤技法復元作品の陳列と技法の階程の表示や着色材料の陳列を行い、未だ解決されてない着色技法問題へ一視点を示した。江戸末の柳川も撥鏤でなく漆使用の描き技法ではないかとの監察が寄せられた。
本展では海外に流出した芝山家具の里帰り展ともいうべく、バブル時に国内に買い戻された作例を可能な限り探して代表作を陳列した。象牙象嵌の芝山家具にも今後、より多くの関心と研究がふりあてられるべきであろうことが予見された。芝山技法の工芸に関しては未だに不明な点が多くあることが今回の調査で認識できたからである。

展覧会情報

会期 1996年8月13日(火)~1996年9月29日(日)
入館料一般200円 小・中学生100円
休館日8月19日(月)・26日(月) 9月2日(月)・8日(日)・9日(月)・17日(火)・24日(火)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売