久保守

1997年6月10日(火)~1997年7月20日(日)

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久保守は明治38(1905)年、札幌に生まれた。兄はプロレタリア劇作家の久保栄であった。兄の栄と共に油絵を描き始めた久保は、大正13(1924)年に東京で学び始めた。
 藝大卒業後、昭和5(1930)年- 昭和6(1931)年のヨーロッパ留学を経て、師梅原龍三郎の勧めで、春陽会から国画会に移籍した。27歳で国画会会友となり、以後同会を舞台に作品を発表し、日本の洋画壇に確固とした地位を築いていった。
昭和19(1944)年、母校の東京藝術大学に戻った久保は、以後27年の長きにわたって後進の育成に携わり、多数の優れた画家を世に送り出している。
1950年代からは、日本国際具象派美術展、国際形象展などに出品、我が国を代表する画家の一人として、理知的で情感あふれる作風を示した。
久保守の絵画世界は、初期の写実的な画風から、戦後は立体感を強調した力強い実在感豊かな人物画、風景画に変化し、1960年代には、室内の椅子やテーブル、または人物を単純化して組み合わせた幾何学的形態の画面へと変化していった。その後久保は、アトリエの身近な題材を描いた静物画や室内画の他に、楽器を演奏する音楽家や芝居を演じる俳優など、舞台情景を描いた作品群に他の日本人洋画家には見られない独自の画境を拓いた。それらの画面には人生の悲喜劇が造形のドラマとなって繰り広げられ、誰もいないステージや、ひっそり室内に置かれた楽器や静物に形象のハーモニーが奏でられている。
東京藝術大学退官後は、平成4(1992)年暮れに生涯を閉じるまで伊豆高原のアトリエで、更なる新しい境地へ向けて制作に没頭。その一途な探求精神は、穏やかな海辺の風景や生きる喜びを歌い上げた花や静物画に、さらには厳しい情念を託した心象風景絵画などとして結実したと言える。
久保守は油彩による具象絵画の可能性を一貫して追求した画家であり、卓越したデッサン力と緊密な構成力に基づく画面は、都会的な洗練とエスプリを感じさせ、静謐で貴族的な気品を放っている。
本展は、久保守の全作品の中から代表作を数多く選び、油彩約85点にデッサン、水彩、陶器などあわせて約120点の作品で構成した没後初めての大規模な回顧展である。

展覧会情報

会期 1997年6月10日(火)~1997年7月20日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
休館日毎月曜および7月13日(日)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売