山口蓬春

―新日本画への軌跡―

1997年9月30日(火)~1997年11月16日(日)

本展は山口蓬春記念館と共同企画した展覧会である。山口蓬春の本画71点、下図・素描など20点を展示し、平成3(1991)年に開館した山口蓬春記念館での調査・研究成果もふまえて、代表作を網羅した作家の全貌を展望する回顧展となった。
山口蓬春は、大正・昭和と激動の時代を、伝統の継承と時代に即した感覚のなかで、新しい日本画の可能性を模索し続け、近代の日本画の進むべきひとつの方向を示した画家である。
一時は洋画家をめざし東京美術学校西洋画に学ぶのだが、それがのちに彼の様式の根底をなすことになる。最初期の作品で、写生の感覚を残した卒業政策《晩秋》《雨霽》はそうした蓬春の出自を物語る作品である。大正15(1940)年、華々しく画壇へデビューを果たすことになった帝国美術院展覧会へ出品した話題作《三熊の那智の御山》は残念ながら出品できなかったが、同寸下図を展示することでその一端を伺えたかとおもう。松岡映丘を師とし彼が率いる新興大和絵会に参加するなかで、風景に対する独自な表現と鮮麗な色彩を導入し日本画に新たな魅力を生み出した。その時期の大作《潮音》《緑庭》《扇面流し》といった作品を展示できたことは大きな成果であった。
昭和5(1930)年には福田平八郎、木村荘八らと六朝会の結成に参加するが、流派を越えた彼らとの交流は、西洋画の経験と東洋の古典の研究をふまえての新日本画をかたち作るうえで重要な過程であった。《立葵》《渓》《春汀》などは小品ながらこの時期を示す優品である。また同時に、朝鮮の朝市を題材にした《市場》や台湾風物を取材した《南嶋薄暮》も風景画を本領とする蓬春の一面を示す作品として重要である。
戦後の出発点となった《山湖》は、近代的感性による、清麗な色彩と爽快な画面構成で蓬春芸術の新境地を示すものである。以後次々と作品を発表し、伝統的な技法を低流に、西欧の近代絵画や時代感覚を意識した制作姿勢は、日本画の枠にとらわれない蓬春モダニズ
ムと形容される世界を作り出してゆく。《榻上の花》《夏の印象》《青沼新秋》などの戦後初期を飾る作品は、「蓬春モダニズム」といわれる作風を遺憾なく見せている。冷徹な写実性のみられる《盤中濤》《冬菜》など、また《留園胎春》《夏》《秋》《陽に展く》など晩年にむかっても衰えることのない充実した作品は圧巻である。《望郷》《宴》といった一風変わった話題作も見逃せない作品である。

展覧会情報

会期 1997年9月30日(火)~1997年11月16日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
休館日10月6日(月)・12日(日)・13日(月)・20日(月)・27日(月) 11月4日(火)・9日(日)・10日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館 山口蓬春記念館(財団法人JR東海生涯学習財団)
展覧会図録

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完売