江戸の遊び絵

―遊びと祝いの浮世絵の世界―

1998年8月4日(火)~1998年9月20日(日)

浮世絵の展覧会は各地で数多く開かれているが、やはり美人画や風景画を扱うものが大半を占めているだろう。本展はそのようなよく知られた名品ではなく、従来あまり知られていなかった遊びの浮世絵を対象とした。すなわち様々な事物を組み合わせて別の新しいイメージを作り出す寄せ絵、一つの頭を複数の胴体が共有する奇体画、上下反転しても違う顔に見える顔面絵、切り抜いて遊ぶ切抜絵や組上絵、曲面である刀の鞘にゆがめて映すと正しく見えるさや絵をはじめ、仕掛絵、折りかわり絵、身振絵、影絵、隠し絵、ひも絵、くぎ絵、一筆画、文字絵、絵文字、遊び紋様、判じ絵、地口絵といった作品群である。これらはいずれも遊びの要素を含むので遊び絵の呼称を用いたが、戯画や風刺画のように絵の主題が遊びに関わるのではなく、形や線の面白さといった造形に関わる遊びである。従来こうした浮世絵は一段価値が低いものとして見過ごされがちであったが、アイデアと機知に富んだその斬新な造形は、現代的な感覚にあふれている。
また、同時に取り上げたのが、遊びの感覚と宗教的側面を合わせ持つ祝いの浮世絵である。七福神図と有卦絵がこれにあたり、めでたさを喜んだ江戸庶民の素朴な心情が反映されたものである。有卦絵はめでたさを求めた当時の迷信に基づき、福助や富士、筆、藤といった「ふ」の付くもので構成される祝いの絵で、この展覧会において初めてまとまった展観がなされた。庶民的な遊びの感覚にあふれた近世的な宗教画として、新たな評価が望まれる。
この展覧会は遊び絵研究家の稲垣進一氏のご尽力をいただいて、未紹介作品を多数含んだ180点あまりを出品し、遊びと祝いに関わる浮世絵の魅力あふれる世界を紹介した。地下一階展示フロアに設置したさわって遊ぶコーナーも、夏休みの子供連れなどに好評を博した。

展覧会情報

会期 1998年8月4日(火)~1998年9月20日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
休館日8月9日(日)・10日(月)・17日(月)・24日(月)・31日(月) 9月7日(月)・13日(日)・14日(月)・16日(水)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売