写真芸術の時代

―大正期の都市散策者たち―

1998年12月8日(火)~1999年1月31日(月)

写真芸術社は、大正10(1921)年-大正13(1924)年の間に東京で活動した、写真による新しい芸術を宣言したグループである。メンバーの福原信三、大田黒元雄、掛札功、福原路草、石田喜一郎らは、精力的な展覧会活動と、雑誌「写真芸術」等の出版によって日本全国の写真作家たちに大きな影響を与えたが、関東大震災によりわずか3年足らずで活動を終えてしまった。本展は、これまでほとんど忘れられていた、写真芸術社の全貌を紹介する初めての機会であり、出品作品の90パーセント以上が当時以後、初めて展覧されるものである。オリジナルプリントと当時の出版物を中心に、プリントが存在しない場合は出版物からの複写資料を用いて、その内容を回顧した。
彼らの新しさは、まず近代化の進む都市をテーマにし、従来的な意味での風景を撮るのではなく、街のオブジェや群衆をカメラアイによってクローズアップしたことにあった。しかも、写真を光と影の諧調に還元して考え、その微妙さに写真の独自性を見いだして、自らの芸術手段としたのであった。こうした態度は世界的に見ても非常に早い、写真のモダニズム的解釈ともいえるのである。
さらに、写真芸術社の特徴は、クローズアップと余白を活かした平面的構成を全面に出したものにあり、ジャポニズム的な要素がその骨格をなしているといえる。彼らの活動から十年近く後に日本で流行したいわゆる「新興写真」がモダニズム的手法の移入であったのに比べると、より独自性をもった活動として評価できるのである。
ジャポニズムとモダニズムが接するようにして生み出された彼らの成果は、絵画主義的写真からモダニズム写真へと展開していく従来の写真史を考え直すうえで意義があるだけでなく、日本近代美術とモダニズムの問題を考えるうえの重要な資料ともなりうるだろう。
大田黒元雄は戦前、著名な音楽評論家として活躍したが、彼の写真制作期間は短く、写真の上での業績は全く省みられることがなかった。本展の出品作により、再評価されたことは幸いであった。
なお、本展出品作のほとんどが、寄贈あるいは寄託作品となって、当美術館に保管されている。本展を機会に発見された石田喜一郎の生涯の作品約300点は、日本写真史上欠くことのできない作品群であり、今後まとめた形で紹介したい。

展覧会情報

会期 1998年12月8日(火)~1999年1月31日(月)
入館料一般300円 小・中学生100円(65歳以上の方及び障害者の方は無料)
休館日12月13日(日)・14日(月)・21日(月)・24日(木)・28日(月)~31日(木) 1月1日(金)~4日(月)・10日(日)・11日(月)・18日(月)・25日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
協賛 資生堂
展覧会図録

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価格:2,000円

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