創作版画の誕生

―近代を刻んだ作家たち―

1999年4月6日(火)~1999年5月23日(日)

創作版画は、近代的な個の芸術表現を獲得していった作品として知られている。明治末期のいまだ「版画」という言葉さえない時代に、山本鼎や石井柏亭を中心とした雑誌『方寸』に集まった画家たちは、新しい版画の発表とともに普及活動を展開する。伝統的な複製版画から決別し、近代意識を背景にした創造的な版画の誕生である。
明治末の自然主義から大正の個性豊かな表現へと変遷する時代、絵画と文学に包まれた揺籃のなかから版画の芸術性は確立した。世紀末の耽美派文学運動「パンの会」や武者小路実篤が率いた白樺派、そして表現主義などを背景にし、『明星』をはじめ『方寸』『月映』『假面』などの美術文芸雑誌に掲載されることによって社会的にも浸透してゆく。画家は油彩画、水彩画を描きながらまた時には陶芸の傍ら版画に傾注してゆき、その模索の中から版画独自の表現を発見していった。
そもそも版画の印刷との未分化のなかからその存在価値を提唱しようとしたのが創作版画であり、大きな美術史のなかに同時性をもってうまれたが、近代意識に裏付けられた版画という性格を、必要以上に意識せざるをえなかった当時の時代状況においては、やがては自画自刻自摺を標榜する狭小な性格と、版画芸術として独自な展開に悩まされていく。
しかし、創作版画運動はわが国の版画の展開に大きな影響を及ぼした画期的な出来事であり、初期の黄金時代とも言えるこれらの作品は、精神的影響と版画芸術の持つ重さはいまもなお忘れることはできない。
本展では、山本鼎の《漁夫》発表の明治37(1904)年前後から、多くの版画家が集結した日本創作版画協会が結成された大正8(1919)年までを、版画、水彩画、油彩画、素描、装幀など約300点の作品や資料で構成した。近代的な芸術としての版画を創造しようとした作家たちの足跡を辿り、大きな美術の流れを見据えつつ、創作版画の草創期を展望した。

展覧会情報

会期 1999年4月6日(火)~1999年5月23日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円(65歳以上の方及び障害者の方は無料)
休館日4月11日(日)・12日(月)・19日(月)・26日(月)・30日(金) 5月6日(木)・9日(日)・10日(月)・17日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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価格:1,800円

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