浮世絵師たちの神仏

―錦絵と大絵馬に見る江戸の庶民信仰―

1999年6月8日(火)~1999年7月25日(日)

近世(江戸時代)の宗教絵画は、日本美術史の中でこれまでほとんど陽の当たらなかった分野であるが、古くさい仏画が数多く描かれた一方で、新たな時代に即した斬新な表現も生まれている。本展が取り上げたのは、「めでたさ」という言葉に象徴される、江戸庶民の素朴な宗教観の絵画化である。
宗教絵画の庶民化は、近世初頭、大津絵と呼ばれる素朴な仏画に始まるが、これを生み出した上方が伝統的な宗教美術の根強い地域であったためか、大津絵は近世中期から後期に下るにつれて、次第に宗教画としての内実を薄れさせていく。代わって近世中期以降の宗教絵画の庶民化をリードしたのは、急速に発展する江戸の浮世絵であり、各地で目立って増加する奉納絵馬であった。極めて安い値段で購うことができた浮世絵は、基本的には消耗品であり、当時版行されたもののごく一部が遺るに過ぎないが、それでも七福神図、麻疹絵、鯰絵などは今日もかなりの数を見ることができる。社寺が発行した墨摺りのお札の類を含めれば、木版印刷によって庶民層に行き渡った宗教画は中世に数倍する。そしてそこには庶民の信仰に根ざした新しい表現が認められるのである。
浮世絵は遊廓や芝居といった市井の風俗―聖に対する俗―を描くものというイメージが強く、一般には宗教絵画の対極に位置するものととらえられている。確かに遊廓や芝居は浮世絵の大半を占める主要なテーマであるし、浮世絵がそこから始まったものであることも疑えぬところであるが、浮世絵は江戸庶民の日常生活に深く結びつきながらその領域を広げていったのであって、信仰的要素が江戸の庶民生活に不可欠なものであった以上、浮世絵がこれを取り上げるようになるのは極めて自然なことであった。
本展が取り上げたのはそのほんの一部分に過ぎないが、宗教的主題を扱う浮世絵を可能な限り幅広く取り上げるとともに、浮世絵系の絵師が描いたと見られる大絵馬を合わせて展示することにより、活気に溢れた江戸庶民の新しい宗教表現を提示しようと試みた。

展覧会情報

会期 1999年6月8日(火)~1999年7月25日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
※65歳以上の方及び障害者の方は無料
※第二、第四土曜日は小中学生無料
休館日6月13日(日)・14日(月)・21日(月)・28日(月) 7月5日(月)・11日(日)・12日(月)・19日(月)・21日(水)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売