江戸小紋と型紙

―極小の美の世界―

1999年8月10日(火)~1999年9月26日(日)

No Image

型紙を使って着物の文様を染める技法を型染めといい、我が国に古くからある技法の一種である。型紙などによって染めた細かい文様を小紋といい、ゆかたなどに用いられた中型と対比される。江戸時代に武士の裃などの礼装に小紋が用いられ、各藩は独自の小紋、いわゆる定め小紋(留柄)を考案し、競って精緻な小紋柄を発展させた。江戸中期には、小紋は町人の間にも普及し、明治・大正・昭和へと受け継がれた。これらの小紋柄の着物は昭和以降しだいに江戸小紋と呼ばれるようになった。
柿渋加工の和紙に彫刻刀で彫り上げた型紙は、江戸時代おもに、伊勢、鈴鹿の白子、寺家村を中心に製作され、紀州藩の威光のもとに有利に全国に独占販売された。各地に数多くのこのような伊勢型が残されているが、江戸型、京型、会津型など地域的特色のある作品も一部知られている。残された型紙を見ると、人間技とは思えない極小さに驚く。また、縞、幾何学模様、花鳥風月模様など無限の文様の宝庫となっている。
型紙はデザイン画、美術品という観点から見ても、第一級の作品である。しかるに、日本では、染屋、型屋が、着物の衰退とともに廃業したのに伴い、又、世間の無関心もあり、膨大な数量の型紙が廃棄され、消失していった。しかしながら、一部は欧米に渡り、その細かさとデザインの斬新さに欧米人は驚嘆した。西洋ではロンドン、ウィーンなど各地にもたらされ、ウィーンでは装飾美術館に4万点のコレクションが知られ、ウィーンの工芸運動にも影響を与えた。アメリカではボストンなど東海岸を中心にコレクションが形成され、当地のデザイン教育にも取り入れられた程、高く評価された。しかるに日本では、長い間、省みられることもなく、軽視されてきたことは残念であった。
近年、喜多方など会津地方をはじめ、東北各地の染屋や個人所属の型紙が博物館、資料館などに相ついで寄贈され、整理されて、図録などの内容で刊行されはじめた。このように一部の地方の型紙が展示されつつあるが、これも小規模で散発的であった。本展は東北のみでなく東京、伊勢、関西その他の地域の型紙の優品約150余点を集め、各型紙をアクリル板ではさみ、背後から光りをあてて模様がくっきり見えるように展示した。更にこれまで体系的に展示されることのなかった小紋柄の着物の優品約90点を展示した。
重要文化財の徳川家康ゆかりの小紋着物など重要文化財3点に加えて、裃、江戸町人の小紋衣裳、明治、大正、昭和の各時代の小紋柄の着物の実例を初めて、型紙と平行して比較展示した。これによって、日本の江戸、明治の細密工芸の技術の高さとデザインの素晴ら
しさを日本の人々に、再認識させることができたと思われる。

展覧会情報

会期 1999年8月10日(火)~1999年9月26日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
※65歳以上の方及び障害者の方は無料
※第二、第四土曜日は小中学生無料
休館日8月16日(月)・23日(月)・30日(月) 9月6日(月)・12日(日)・13日(月)・16日(木)・20日(月)・24日(金)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

展覧会図録

完売