石井柏亭 絵の旅

2000年4月4日(火)~2000年5月21日(日)

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石井柏亭(明治15(1882)年-昭和33(1958)年)は、紀行をつづけた画家である。国内の各地をめぐっては気にいった場所でくり返し制作した。
近代風景画は、既成の目にさらされた名所絵からはなれて、自らの眼をとおした風景を発見していった歴史である。明治以来の画家たちは、解き放たれたように絵の具をもって各地を歩き山河を描いたが、石井柏亭はそうした画家たちの系譜に連なる存在である。さらには海外へもむかい、初期の代表作を生み出した欧州旅行をはじめ、戦前の朝鮮、満洲、あるいは戦後の米国への旅など、自然の風景や風土を求めつづけた。 柏亭は旅した土地について文章も残しており、単に描くというよりも紀行そのものを記述していったと言ってもよいかもしれない。彼ほど絵と文章一体で風景を描き留めた作家はいないだろう。
明治末に流行し多くの画家に愛された水彩には、もっとも柏亭らしさが活かされている。明治の風景画には自然にたいしての陶酔感がみられるのに対して、柏亭は平凡な自然、散文的な自然をとらえようとしている。水と山が織りなす広がりは彼に欠かせない題材であり、透明な輝きと、平穏な美しさがある。
また、石井柏亭は家族や旅先で見いだした人々を描いている。それは人物とその雰囲気とをひとまとめに包み込むような作品である。人々の佇まいや家族の憩いのひとときのその日常性のなかに、「自然」を見いだした。柏亭は、風景と日常性にある「自然」を発見することによって、日本の特性(ローカル・カラー)を表現しようとした。
柏亭はヨーロッパの芸術動向をいち早く我が国に紹介するほど進歩的であったにもかかわらず、大正時代の主観的作風と西欧の新しい造形理念が広がるなかで、そうしたものを
奥に秘めながらあくまで自然の写実を追求した。浅井忠に師事し明治という時代を引き継ぎながらも、他方で大正・昭和という時代を咀嚼する、彼は希有な才能を持っていた。
本展は、おもに水彩画と油彩画に焦点をしぼり初期作品から最晩年の作品まで約150点を展示し、現時点で判別できる限りの柏亭作品を網羅した、石井柏亭の回顧展としては、没後もっとも大規模なものであった。

展覧会情報

会期 2000年4月4日(火)~2000年5月21日(日)
入館料一般300円 小・中学生100円
※65歳以上の方及び障害者の方は無料
※第二、第四土曜日は小中学生無料
休館日4月10日(月)・17日(月)・24日(月)・5月1日(月)・8日(月)・15日(月)
主催 渋谷区立松濤美術館
展覧会図録

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完売