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松濤美術館ニューズレター <らせん階段> no.4

過去のニューズレター | 2016.03.01

館長室の窓から <4>

渋谷区立松濤美術館長 西岡康宏

時間のたつのは早いもので、新年を迎え、はや3月半ばとなりましたが、未だ寒い日が続いております。
昨年度秋に開催したリニューアル記念特別展「御法に守られし 醍醐寺」も昨年11月24日に無事閉会を迎えました。目玉の出陳作品でありました国宝「過去現在絵因果経」が全場面陳列されるということもあって、多くの方々に関心をお持ち頂きました。
そのおかげで、入館者数が1万人を超え、私どもとしては嬉しい限りです。これも、ひとえに醍醐寺座主をはじめ、一山の皆さまのご協力の賜物と感謝申し上げております。

この展覧会に続いて、12月9日から本年1月25日までは、「天神万華鏡~常盤山文庫所蔵 天神コレクション~」を開催いたしました。この企画は、とくに受験生をはじめ学問を志す方々を激励することにつながればと意識したものでした。期間中はご来館の皆さますべてに、記念品として鉛筆2本を差し上げ、特に受験生がお使い頂けるよう願って企画しました。天神というテーマによるためか、新年早々からお客様にご来館頂けました。初詣という感覚と天神につきものの梅花という組み合わせが、お正月らしく皆様に受けいれられたことによると思われます。

その後、恒例の渋谷区在住・在勤・在学の方々を対象とした「2015松濤美術館公募展」を開催いたしました。昨年は当館の改修工事の期間の都合上お休みしましたが、今回の第32回の公募展より、受賞制度を見直し、新たに学生優秀賞を設け、さらに奨励賞を5名から10名に増やしました。そのため、応募者数も前回より増えました。今展覧会の中島千波審査委員長より、力作ぞろいとのご講評も頂きました。この度の賞の増設を契機に、以前にも増して多くの方々にご応募頂けることを願っております。
続いて恒例の「第33回渋谷区小中学生絵画展」を開催いたしました。本展は渋谷区立の小中学生全員の作品の中から各校の代表として選ばれた作品を展示しておりますが、この点は何より喜ばしいことです。加えて、青山学院初等部、実践女学園中学校、富士見丘中学校といった私立校からの出陳もあり嬉しく思います。これと同じ時期に「第33回渋谷区立小・中学校特別支援学級連合展覧会」を地下2階ホールで開催いたしました。心の赴くままに作り上げた、のびのびとした作品が並んでいるところは実に印象的で感動的でした。
公募展、渋谷区小中学生絵画展と同時に、2階展示室サロンミューゼにおいては、「ロベール・クートラス展 夜を包む色彩」を開催しました。今までごく一部の方々にしか知られていない本画家の遺作展で、カルト、グワッシュ、油彩画、テラコッタという多様な作品を展示しました。ほのぼのとした独特な画風・作風が、受け入れられて大変多くの方々に鑑賞して頂きました。
以上、昨年秋から今に至るまでの当館の展示活動をご報告しましたが、いよいよ新年度には5つの企画展の第1弾「いぬ・犬・イヌ」展を4月7日より開催いたします。ぜひ、ご期待ください。

展覧会ここだけの話 <3>

「展覧会ここだけの話」
企画展担当学芸員より

今年の夏、8月8日から当館で開催予定の「スサノヲの到来‐いのち、いかり、いのり」展が、「美連協大賞」という賞を頂きました。全国の公立美術館を主メンバーとする141の美術館によって組織された美術館連絡協議会は、1年間に会員館によって企画された優れた展覧会やカタログなどに賞を贈り顕彰を続けております。そのうち、この「美連協大賞」は、最も優れた展覧会に1つに贈られる賞です。賞を頂いたことは嬉しいことです。対象になった展覧会は、足利市立美術館の江尻潔学芸員が立案し、DIC川村記念美術館、北海道立函館美術館、山寺芭蕉記念館、渋谷区立松濤美術館の4館の担当学芸員が企画・作品調査・図録原稿執筆に加わり、形となりました。すでに、足利市立美術館、DIC川村記念美術館で開催され、当館は最後の巡回会場となります。
「スサノヲ」ってなに?という方も多いともいますが、展覧会では、『古事記』に登場する素戔嗚尊(スサノオノミコト)という神を基として、そこから派生する様々な概念を包括したものを「スサノヲ」と呼んでいます。素戔嗚尊は、母を慕って泣き叫び、大地を揺るがし草木を枯らしたということから、「荒ぶる」「破壊」といったイメージと結びつき、さらにタカマノハラでの狼藉によって天上界を追放されたことから、「漂泊」のイメージとも結びきつます。地上界に降りた彼は、ヤマタノオロチを退治し、この世で最初に和歌を詠むことで、「文化英雄神」としての性格も付与されます。このように多くの概念と結びつく「スサノヲ」という存在の多様性を、縄文から現代にいたるまでの考古歴史資料・美術品・インスタレーションなどで辿ってみようというのがこの展覧会の目的です。
企画会議のときには、出陳候補作品がどんどん増えていき、いったいどうなるのだろう?内容はまとまるのか?展示スペースはあるのか?といった不安でいっぱいでした。結局は、館ごとに展示作品を選んで展示することで落ち着きました。古美術は展示場所を担当者の判断で決められますが、現存作家のインスタレーションは、作家の方々と相談の上、展示場所を割振るのでなかなか気を使います。作家の言い分どおりにしていると、他の作品を展示するスペースがなくなってしまうので、展示室内でも通常展示には使用しないような回廊に提示して、作品を再構成して頂くといった調整もしました。私の専門が日本の古美術なので、普段は一緒に仕事をする機会のない現代作家の方々とインスタレーションについて、意見を交わしながら展示を作り上げていくという珍しい体験をこの夏することができるのは、この展覧会の余禄かもしれません。

イベント便り

松濤美術館、こんなことも!あんなことも!やってます!
教育普及チームより

①2月8日

●公募展表彰式(地下1階展示室)
2015松濤美術館公募展の初日を迎えました。今年も、渋谷区在住、在勤、在学の皆様より多くのご応募をいただき、厳正な審査を経て、82名84作の入選作品が決まり、展示しました。その中から、松濤美術館賞(1名)、優秀賞(2名)、学生優秀賞(1名)、奨励賞(10名)に選ばれた14名の方々(うち1人欠席)が、表彰式にご列席くださいました。桑原敏武渋谷区長よりお祝いのお言葉を賜り、西岡康宏当館館長が表彰状と目録の授与、審査委員長の中島千波先生よりご講評をいただきました。最後に、松濤美術館賞を受賞した蔭山茂昭さんが受賞者を代表して、創作の苦労と喜びを語ってくださいました。

●ロベール・クートラス展オープン(2階展示室)
同日、2階展示室サロンミューゼでは、「ロベール・クートラス展 夜を包む色彩」がオープンいたしました。クートラス作品の遺作管理人である岸真理子さんや関係者の方々、古くからのクートラスファンの皆さまが数多くご来場くださり、クートラスの話で盛り上がった展示室は、大変賑やかでした。

②2月28日

●第33回小中学生絵画展表彰式(地下1階展示室)
渋谷区内にある小中学校の児童生徒が、図画工作、美術の授業などで制作した絵画作品の中から、今年は各校で選ばれた187点の作品を展示しました。画用紙いっぱいに、または画用紙から“はみ出した!”“飛び出した!”表現で描かれた作品からは、子供たちの無限の可能性を感じ取ることができます。
展覧会初日となったこの日、優秀賞に輝いた15名の小中学生を、当館に招き表彰式を行いました。桑原敏武渋谷区長よりお祝いの言葉を、西岡康宏当館館長から表彰状と記念品が授与されました。最初は緊張気味の児童生徒の皆さんも、森富子渋谷区教育委員会教育長からの「月曜日に、表彰状と記念品を学校に持っていって、先生やお友だちに、今日のお話をしてあげてね。」との語りかけに、ニッコリとうなづいていました。

●第33回渋谷区立小・中学校特別支援学級連合展覧会(地下2階ホール)
第33回小中学生絵画展がオープンしたこの日、地下2階のホールでは、渋谷区立小・中学校特別支援学級の児童生徒の皆さんが制作した作品を並べた展覧会が開催されました。小中学生絵画展は、名称のとおり「絵画」作品を中心としておりますが、特別支援学級連合展覧会の作品は、絵画、工作、刺繍、書道など実に様々です。「あわあわアート」、「ホッとプレート」、「ガラクタザウルス」…ニューズレターをお読みの皆さんは、どのような作品を想像されますか。
本展は、渋谷区立の小中学校にある特別支援学級の先生方が心を込めて、子供たちの作品を展示した“手作りの展覧会”です。エネルギーに満ち溢れた子供たちの作品からは、子供たちの楽しい笑い声が聞こえる教室のような空間になりました。

③3月5日

●松濤美術館イブニングコンサート(1階エレベーターホール)
春にむかって日も長くなってきた3月、“当館初”のイブニングコンサートを開催いたしました。ヴァイオリンのYuiさんと、ギターの伊藤芳輝さんお二人で活動されているグループHyclad(ハイクラッド)の演奏会に、30名を超えるお客様がご来場くださいました。「亡き王女の為のパヴェーヌ」、「シシリエンヌ」、「夢のあとに」、「カルメン」他、Hycladオリジナルに編曲されたバラエティに富んだ、迫力ある演奏に、来場者の皆さまもリラックスして、夕べのひと時を過ごされていました。

中学生職場体験

松濤美術館では毎年2月から3月にかけて、渋谷区在住、在勤、在学の方々が創作された作品を募る「公募展」と、区内小中学校の児童生徒の皆さんの作品を紹介する「小中学生絵画展」を開催し、渋谷区の皆さまとの親交を深めています。区民の方々との交流は、こうした展覧会を通じた活動だけではありません。ここに紹介するのは、昨秋、当館が受け入れた中学校職場体験の記録です。中学校職場体験は、中学生がそれぞれ経験してみたい仕事を決め、5日間、その職場に通い、職員とともに仕事に従事するという取組みです。こうしたプログラムが導入された背景は、文部科学省ホームページ「中学校職場体験ガイド」に詳述されています。(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/026.htm
現代の子どもたちは生活の中で、疑似体験や間接体験が多くなる一方、社会体験や自然体験等の直接体験が著しく不足していることが大きく影響しているとの指摘があります。職場体験には、生徒が直接働く人と接することにより、また、実際的な知識や技術・技能に触れることを通して、学ぶことの意義や働くことの意義を理解し、生きることの尊さを実感させることが求められています。また、生徒が主体的に進路を選択決定する態度や意志、意欲など培うことのできる教育活動として、重要な意味を持っています。
昨年当館では、松濤中学校(2名)、原宿外苑中学校(3名)の生徒さんが、美術館の仕事、活動を体験しました。渋谷区小中学生絵画展に自身の作品が展示されたときに来館したことがあるという生徒さんの他は、同じ渋谷区内といっても、これまで足を運ぶ機会がなかったようです。美術館を選んだ理由が、「普段、あまり訪れる機会がないから」「自分たちの知らない世界だから」というのも納得です。“未知の世界のさらにその先を知りたい”という意欲旺盛、元気な生徒さんたちでした。
当館ではその時、秋の特別展「御法に守られし 醍醐寺」を開催しており、国宝「過去現在絵因果経」が展示されている展示室など2室を、スタッフとともに巡回、監視していただきました。ケースに寄りかかっている人や大きな声で話をする人に、中学生の子どもたちが注意することは大変勇気のいることですが、事情をご理解いただけるように丁寧な言葉遣いで話かけている姿が印象的でした。次回展覧会のチラシやポスターなどの発送、区内の町会掲示板に掲出するポスターの作成など広報関連の仕事、美術教室で使用するイーゼルの準備、講演会の会場設営など教育普及の仕事を通じて、美術館には展覧会以外の業務があることも知っていただきました。日常生活で触れる機会のない掛け軸の扱い方を学ぶことは、美術館ならではの貴重な経験で、取替えのきかない大切な作品を扱う緊張感と喜びを感じているようでした。
5日間ともに仕事をした中学生のみなさんは、美術館で働く館員として、また社会や組織の中で仕事をするひとりの人間として、私たち大人に多くのことを教えてくれました。渋谷区内の子どもたちをはじめ、子どもたちと美術館との距離を近くするヒントを残していってくれたことに心から感謝しています。

天神万華鏡展のチラシ、ポスターの発送作業。
自身の通う中学校にも発送しました。

職場体験後、お礼のお手紙と5日間を新聞形式にまとめたレポートを送ってくださいました。